京都国際映画祭 特別上映の特集のひとつ「京の映画」。こちらは海外の人から見た日本、京都という街を、スクリーンを通じてご紹介するプログラムで、10月18日(土)にイオンシネマ京都桂川で戸田博監督の『京都、早春』が上映されました。
上映後には舞台挨拶も行われ、戸田監督、新井晴みさん、山田昭二さんが登壇されました。観光地という京都のイメージとは異なり、何げない京都の街を借景にした本作。愛妻を亡くした男が納骨のため妻の故郷へと向かい、そこで美しい女性と出会ったことで人生が流転するという物語は、現実と夢とが交錯し、観る者を不思議な世界へと誘います。
本作は第16回ムンバイ国際映画祭のワールド・シネマ部門にも選ばれ、インドでは10月15日に上映。1000人収容のホールが満員と活況を呈したそうです。また、前作『京都、夏』がモスクワ映画祭にセレクションされたほか、フランスの映画祭にも招待されることが多く、戸田監督の作品は海外で人気が高いことでも知られています。
16日に行われた京都国際映画祭のオープニング・セレモニーに出席した戸田監督は、「映画はひとつの場所に閉じ込めて、お金をいただいて、お客様を拘束してきっちり観ていただくもの。そういう気持ちで撮るものだと思っています。テレビはいつでも、タダで、何かをしながらでも観ることができるもの。昨今ではその違いがなくなってきていて悲しい思いをしているのですが、今回、津川雅彦さんのご挨拶を聞き、そのことを特に強く感じました」と痛感したそうです。
同じくセレモニーに出席した新井さんは「レッドカーペットという華やかな時空を体験させてもらいました!」と興奮冷めやらない様子。そして山田さんは、実はプロの俳優ではなく、福井県で映写技士をされている方。約15年前に戸田監督の作品を上映したご縁で戸田作品の“常連”に。そのため、海外の映画祭に招待されることもありましたが、年齢のことを考慮して辞退。「今回は京都での映画祭ということで行かせていただきまして、初めてレッドカーペットを踏ませてもらい、感動しました」と嬉しそうでした。
そんな山田さんは今や、戸田作品には欠かせない存在。戸田監督も「(山田さんは)ご覧のとおり“変なおじいちゃん”です(笑)。いつも脚本の段階から山田さんそのままをイメージして書いていまして、撮影で当初の構想とは違っても、現場の空気が乱れなかったらOKを出しています」と、その味わい深い佇まいを絶賛。『京都、早春』の撮影現場では、主演の林与一さんも飄々とした山田さんを「怪物」と称賛されたそうです。
福井県出身の戸田監督ですが、京都在住歴は30年に。ですが、京都での撮影は前作『京都、夏』が初めてで、『京都、早春』は2作目。撮影に当たっては「いわゆる五重塔が出るような観光映画にしたくないという思いがありました。町屋とか、普通の風景がいいなと思った」そうで、京都在住の方には身近な場所がたくさん登場するそうです。
京都での撮影を通じて、「生きている人と死んだ人の霊魂が、時空を超えて混ざり合っている不思議な街という印象を受けました」と幽霊役の新井さん。新井さんはイタリア・フィレンツェに長く滞在していた時期があり、フィレンツェは街に住みついた幽霊を愛しい存在として捉える傾向があるのだとか。そこに京都との共通性を感じ、今年で姉妹都市提携50周年を迎える京都市とフィレンツェの関係も頷けるとお話されました。
山田さんは、「シナリオ通りに演じさせてもらいましたが、出来上がった作品を観て、“ひょっとして私も幽霊だったのかな?”と思いました」と、スクリーンでのご自身の印象を。「これまで20作品ほど出させてもらっていますが、監督は“夢とか現実とか、それは人それぞれ感じるもの”という作り方。フランスですごく人気がありますが、芸術の国だけにこういう作品が好きなのかなと感じています」と戸田監督の魅力を分析されました。
「山田さんが感じていたように、インドでのレビューでも山田さんを幽霊として捉えていて、鋭いなと思いました」と戸田監督。続けて、映像と音は世界共通だと感じました。映画を作る上では、なるべく台詞に頼らない作品をいつも目指しています」と映画にかける思いも語りました。