10月17日(金)、イオンシネマ京都桂川で、内田裕也ロックンロールムービー2DAYSの1作品『コミック雑誌なんかいらない!』が上映されました。『コミック雑誌なんかいらない!』は1986年に公開された、内田さん脚本・出演の映画。カンヌ国際映画祭の監督週間に招待されるなど、世界的にも高い評価を受けた名作です。
上映前、内田さんによる舞台挨拶が行われました。多くのお客さんが見守るなか、小走りでスクリーン前に登場した内田さんに大きな拍手が。「皆さんこんばんは、なんとAKB48の指原とジョイントしたクレイジーロックンローラー・内田裕也です。よろしく!」とハイテンションでご挨拶。
内田さん自身も『コミック雑誌なんかいらない!』を観るのは久しぶりだそうで、「今回、京都国際映画祭に登場するということで、オレもしばらく見ていなかったのでこのビッグスクリーンでぜひ拝見したいなと思っています」と宣言。
さらに、映画が誕生したときのエピソードも飛び出します。「この映画は、スタートがとても不幸だったんです。各映画会社に脚本を持って回ったんですけど、どこも買ってくれなくて。『(タイトルの)本題はなんて言うんだ』なんて言われたりね。このタイトルは、頭脳警察というバンドのパンタのシニカルなタイトルを引用させてもらったんです。それに、フィクションとノンフィクションが交錯しながらという出来上がりで、珍しく『絶対いける』と自信を持っていたんですが、見事にどこも買ってくれなかった」とふり返りました。
落胆していた矢先、なんとカンヌ国際映画祭から招待が来たのだといいます。「この年の監督週間が、スパイク・リーのデビュー作と、アレックス・コックス監督の『シド&ナンシー』、そして『コミック雑誌なんかいらない!』。この三つ巴で争ったという因縁の作品です」と当時を語りました。「上映する前、日本映画をいろいろ見ていたんですが、ほとんど半分ぐらいの方が15分ぐらいで席を立って帰ってしまうんです。
滝田洋二郎監督には『始まって15分で人が半分ぐらいしかいないからといって気にすんなよ』と伝えました。彼はピンク映画をやっていて、この作品が一般映画のデビュー作だったんですよ。でも10分経ち、20分経ち、そろそろみんな出て行ってしまうかなと思ったら全然誰も席を立たなかった」。
そして、クライマックスシーンのエンドロールが出る前に、全員が立ち上がって「ブラボー!」と20分以上のスタンディングオベーションが続いたといいます。「夢を見ているような気分になりました。一生忘れられない思い出です。滝田洋二郎監督も、ひと夜にしてカンヌのスターになりました」と、世界中で高い評価を受けるに至った『コミック雑誌なんかいらない!』が打ち立ててきた、数々の名エピソードを語りました。
「当時のマスコミの方々は、『ロックンローラーの作品がそんなわけねえだろう』とイヤな視線をうけたこともありましたけど、オレを舐めていたんだと思います。こうして20年経って、京都国際映画祭に再登場するというのはリベンジを感じるし、満足感で満ちあふれています」とまさにロックンロールな発言も。「今日、大勢の方にご覧いただいて、どういう印象を受けられるかわかりませんが、21世紀にも必ず通用する作品です」と自信を覗かせました。さらに話題は出演者にも。「超豪華ですよ。ビートたけしに郷ひろみ、片岡鶴太郎をはじめ、いろんな方に出演していただいてます。みなさん、ノーギャラとは言わないけれど、“ロックンロール価格”で出演していただきましたね。オレのイデオロギーに賛同してもらった方に参加していただきました」と内田さん。
「ビートたけしは、本当に狂気に満ちた熱演で、北野武監督にとっても、その後の監督生活への大きなヒントになったんじゃないかと思っています」とも。
この作品は、豊田商事会長刺殺事件や日航ジャンボ機墜落事故、ロス疑惑など、実際に起こった事件を元にしているシーンも。
「(ロス疑惑の)三浦和義が成田に返ってきた時も、各新聞社の社会部やレポーターに『内田裕也がこんなところに来てなにやってるんだ』と白い目で見られたこともありました。でも、後日ニューヨークタイムスが取り上げてくれた。そんな映画と誰も思っていなかったので。そのあとは、皆さんの態度が軟化しました」と知られざる撮影秘話も。「僕は映画俳優になりたくてやったんじゃないんです。自分はロックンローラーだというプライドでやってきました。そこは、自分の主義主張を実行してきたつもり」と一貫した信念も。「無理やりロックンローラーと言ってるわけではないんです。僕は高校を中退したんですけど、兄弟がみんな高学歴なものですから。俺だけが当時、ロックンロールを。ロックンロールをやる奴は不良だと言われていました。そんな不良の内田裕也が、カンヌ映画祭やニューヨークタイムスに出て、さらに京都国際映画祭にこうやって上映していただけるというのは夢のようです」と語りました。
舞台挨拶後の囲み会見では、「今の日本映画はどう見えていますか」という質問が。内田さんは「悪いとは言わない」としながらも、「ほとんど原作がコミックだったりマンガだったり、そういうのばかりなので。最近の時代劇映画だと小泉堯史監督の『蜩の記』がありますけど、僕も時代劇には興味があるので、ぜひやってみたいです」とコメント。
さらに『コミック雑誌なんかいらない!』について、改めて語るひと幕も。「カンヌ国際映画祭に招待されたのも、ニューヨークタイムズで紹介されたのもすごくうれしかったですが、僕自身としては『毎日映画コンクール脚本賞』を受賞したことが、自分に対しての評価なんだと一番うれしかった」とも。改めて、この作品へのへの深い思いを覗かせました。