京都国際映画祭の「モスト・リスペクト in Paris賞」を受賞したイレーヌ・ジャコブさんの
主演作品『ふたりのベロニカ』が、10月17日(金)、イオンシネマ京都桂川で上映され、イレーヌさんが舞台挨拶を行いました。
『ふたりのベロニカ』とは、同じ名前で同じ容姿、才能を持ちながら、別々の国に生まれたふたりのベロニカの数奇な運命を描いたストーリー。
1991年、第44回カンヌ国際映画祭でイレーヌさんが女優賞を、さらに国際映画批評家連盟賞を受賞した名作です。
上映後、劇場に姿を現したイレーヌさんにお客さんから熱い拍手が贈られました。
イレーヌさんはその拍手に応える様に「コンニチワ」と日本語でご挨拶。
まず昨日16日、祇園甲部歌舞練場のレッドカーペットを歩いた感想を尋ねられた際は、「記念すべき第1回目の京都国際映画祭に参加できて大変感動しています。
監督や俳優など、映画に関わる人間にとり、フェスティバルはとても重要なイベント。京都というのは本当に素晴らしい町。この町でこのフェスティバルを開催されるというアイデアも大変素晴らしいと思います。ずいぶん前にポーランドで撮影した作品を、今、日本の京都で皆さんに観ていただけるということで、本当にグローバリゼーションの時代がきているんだなと感じます。私も初めてレッドカーペットを歩かせていただきました。このフェスティバルが永遠に長く続くことを心より祈っています」と語りました。
さらに、「工夫、創意に満ちた日本映画がこれからも発展することを祈っています」と日本映画界にエールも。
日本には何度か訪れたことがあるというイレーヌさん。
『ふたりのベロニカ』、『トリコロール赤の愛』のクシシュトフ・キシェロフスキ監督も日本をとても愛していたとか。「クシシュトフ監督はポーランド出身なんですが、この作品を作った時のポーランドの政治情勢は、表現の自由が非常に厳しく規制されている状況でした。ですから、監督としては、はっきりとモノが言えない映画作りをするなかで、ほのめかして伝えるという表現を使い、しかも抒情的、詩的な映画として作りました。
監督は、つねに観客と手を取り合って映画を作っていく、という考え方を持っていました。そんな中で、とくに日本の観客の方たちの、『はっきりと言わなくても理解ができる』ということをとても高く評価していました。この映画は、抒情的・詩的と言いましたが、同時にインスピレーションもものすごく大切にされている映画です。インスピレーションをテーマにした素晴らしい映画だと思っています」とイレーヌさん。
例としてラストシーンに触れ、「ベロニカが(実家の庭の)木に触るシーンがありますよね。西洋のジャーナリストの人たちは、このラストシーンで『ベロニカはどういう理由で木に触るんだ? どういう意味があるんだ?』と聞きたがり、なかには『最後のシーンは、ベロニカはお父さんのところへ走って行く感じにすればいいのではないか?』と言う方もいらっしゃいました。でも、日本の観客の人たちはそういうことを何も聞きません。あの映画のラストシーンでベロニカが木を触るというのは、日本の人たちの心にスッと入っていくようなシーンだったんでしょうね。監督にとり、日本の皆さんの感性はとても重要なことだったと思います」と作品をふり返りました。
また、ベロニカという2人の女性を1人で演じたことについて深い話も。
「物語の最初はポーランドが舞台になっており、そこに住むベロニカを演じています。映画の後半は、パリに住んでいるベロニカを演じています。監督に私は、『2人の女性のしぐさをまったく違うものに変えてほしい』と頼まれました。でも私は、両方の女性の中に私自身があるような気がします」と語り、「ポーランドのベロニカは、本当に人生を謳歌していてものすごく早いペースで行き急いでいますね。まさしくヒロインという言葉がぴったりで、何も怖いものがない無敵の女性です。人生で起こる別れ、未知のもの、知らない世界にも突進していくような女性。フランスのベロニカは、どちらかというと受容性のある女性です。少しずつ自分の人生を歩んでいくというタイプです」と、ふたりのベロニカの性格を説明するひと幕も。
クシシュトフ監督との思い出に残るエピソードも飛び出しました。
「この作品は、フランスとポーランドの共同作品なんですが、作られた頃のポーランドは政治的に非常に重要な曲がり角にあったときです。ちょうど自由化への幕が上がり、新しい時代の足音が聞こえてきた頃。そんな中、フランスとの共同制作でこの映画が作られました。1991年という時代に東ヨーロッパを見るというのは、そういった情勢の変化を理解するにはとても重要な時期だったと思います。この映画の制作にあたり、クシシュトフ監督からコンタクトされたときのある日の午後、たくさんの時間をかけて、この映画のシーンについて説明を受けました。しばらく経って3時間の面接を受けて、そのとき『私に出会うためにこんなに長い時間をかける人も珍しいな』と感じました。3時間の面接で監督は、『あなたができることは、すべて分かった。そして、できないこともよく分かったよ』と言ったんです。ものすごく注文の厳しい監督でしたが、素晴らしい経験をさせていただいたと思っています」と感謝の気持ちを語りました。「もうひとつ皆さんに伝えたいのは、クシシュトフさんという作家は、本当に綿密な、きちっと仕上げたシナリオを作る人だったということ。ところが『ふたりのベロニカ』を作った時は、綿密なシナリオを作ることがとても難しかったそうです。それがあまりにも難しく、15もの違ったモンタージュを作り、2人のベロニカのストーリーをまとめ上げたそうで、とても苦心したと聞いています」とその苦労をふり返りました。
舞台挨拶の最後には、イオンシネマ京都桂川から花束のプレゼントが。イレーヌさんの口から語られる、数々の貴重なエピソードに駆け付けたファンも感激していました。