「映画もアートもその他もぜんぶ」をテーマに、映像をはじめ多彩な芸術ジャンルを融合させ世界に発信する「京都国際映画祭」が、10月16日(木)、開幕を迎えました。
オープニングセレモニーは、京都の春の風物詩のひとつ「都をどり」の会場として知られる祇園甲部歌舞練場にて開催。
歴史ある建物内には長さ50mのレッドカーペットが敷かれ、艶やかな舞妓さんがお出迎え、さらに世界初の感情認識パーソナルロボット・ペッパーが場内へ案内するという、映画祭同様“伝統と革新”が一体となった演出が施されています。
集まったメディアの取材に応じながら、華やかに会場へと入場しました。
セレモニー前には、芸妓さんたちによる伝統芸「手打ち式」が行われました。
数十人の芸妓さんが黒紋付姿で舞うこの式は、京都南座の顔見世興行で披露されるという由緒あるもの。京都らしい華やかな演出で、映画祭の開幕を祝います。
再び幕が開き、開幕の挨拶に登場したのは笑福亭仁鶴。
「吉本と京都は昔から縁がありまして……」と、新京極にかつてあった京都花月でのエピソードを披露。
映画発祥の地だけあり、当時は大物俳優の方も劇場によく足を運ばれていたそうで、『鞍馬天狗』でおなじみの嵐寛寿郎さんが見えたことも。
その縁から嵐さんと対談をしたこともあるという仁鶴は、映画スターのユーモアあふれる素顔を紹介して笑わせます。
同映画祭については「伝統芸能を世界へ発信しようという内容は京都にぴったり」と語り、「これがますます発展して、世界の注目を浴びるイベントになるためにスタッフが頑張っていますが、京都の皆さんに賛同していただくのが一番の力になります」と、来場者の皆さんに改めてサポートをお願いしました。
続いて、司会を担当する藤井隆、チュートリアル、KBS京都アナウンサーの遠藤奈美さんが舞台へ。
4人がイベントの概要等を説明した後、まずは同映画祭実行委員長の中島貞夫監督が挨拶に立ちました。
中島監督は「京都は映画のふるさと。19世紀にフランスで生まれた映画が、初めて日本で実験上映されたのも京都。いち早く映画製作も始まり、映画に深い関わりを持った地」と、京都と映画の深い縁に触れ、前身となった「京都映画祭」の歴史を振り返りつつ「今回は“国際”と名付け、より規模も大きく新しい映画祭として立ち上げました」と説明します。
また「“祭り”の部分を皆さんに楽しんでいただけるような映画祭だと思っている」とも語り、最後は「50年間現場で叫んできた言葉」として「京都国際映画祭、よーい、スタート!」の声で開会を宣言しました。
「映画部門」総合プロデューサーの奥山和由は、「ここ1週間ぐらい、ある方の夢を何度も見た」と、自身が“映画の師”と仰ぐ故・深作欣二監督とのエピソードを。
『仁義なき戦い』に憧れ何度も撮影所に足を運ぶうち、深作監督から京都に招かれたという出会いの思い出に始まり、失意の時期に受け取った手紙の最後の一文なども紹介。深作監督がこの場にいないことを残念がりながらも、「盟友・中島監督は現役バリバリ。こうしてご一緒できるのはこの上ない喜び」「映画祭を立ち上げるにあたり、仲間が寄り添ってくれ、また会場に皆さんが集まってくださっているのは、私にとって誇りであり喜びです」と話しました。
「アート部門」総合プロデューサーを務めるのは、漫才師でありながらアートにも造詣の深いおかけんた。
京都が来年「琳派400年」を迎えることから、京都がさまざまな伝統芸術を育んできたことに言及。映画祭では「伝統工芸を取り上げつつ、現代アートとのコラボもしていく」とのことで、「京都から世界へ発信する映画とアートを、これから皆さんと一緒に楽しんでいきたい」と呼びかけました。
来賓を代表しての挨拶は、門川大作京都市長の代理として、京都市文化市民局文化芸術担当局長の奧美里さんが登壇。
大の映画好きとして知られる門川市長からの「『京都映画祭』を京都市として応援してきたが、残念ながら第8回で惜しまれつつ終了してしまった。今回、再び同映画祭の伝統と志を受け継ぎ、新しい映画祭を立ち上げてくださったことに感謝している」「『京都国際映画祭』は、幅広いジャンルの文化芸術を世界に向けて発信する、まさに進化を遂げた映画祭。(京都市も)今後も映画都市・京都ならではの魅力を磨き上げる努力を続けていく」といったメッセージが読み上げられました。
安倍晋三内閣総理大臣、菅義偉内閣官房長官からの祝辞が紹介された後は、「映画部門」の作品紹介、「アート部門」の展示紹介、そして「クリエイターズ・ファクトリー」の概要と審査員紹介が行われます。
合わせて、陶芸家の近藤高弘さんデザインの各賞トロフィー、「クリエイターズ・ファクトリー」の審査員に名を連ねるミハイル・ギニスさんが手がけた副賞のスカーフもお披露目されました。
続いては、各賞の授賞式です。
最初に授与されるのは、今回新設された「モスト・リスペクト賞」。
プレゼンターを務める中島監督からは、「世界を舞台に活躍している映画人に対し、その偉業を賛え贈る賞。ある意味では、映画人へのラブレターを送りたいという意味で作られた」と、同賞に込められた思いが語られました。
受賞者は、84歳にして現在も2年に3本のピッチで素晴らしい映画を撮り続けているクリント・イーストウッドさん。
代理としてワーナーエンターテイメントジャパン代表取締役社長ウィリアム・アイアトンさんが登壇、賞を受け取りました。
現在は新作『アメリカン・スナイパー』のポストプロダクション中で出席はかなわなかったとのこと。
アイアトンさんは、映画『硫黄島からの手紙』の撮影に際してのエピソードも紹介。
「硫黄島に行くなら福岡が近いんですが、『京都に行きたい』と。だからまず京都に寄ったんですよ」と、イーストウッドさんの“京都好き”な一面を明かしていました。
「モスト・リスペクト in Paris賞」も、今回新たに設けられた賞。
こちらは奥山さんがプレゼンターを務めます。
世界で最初に映画が誕生したパリと、日本で初めて映画が上映された京都、このふたつの都市が「友情盟約」を結んでいることから、パリ出身の映画人に贈られることになったこの賞。
奥山さんが「フランスの女優さんは愛を語るのが上手いが、その中でも抜群の表現力を持つ人。愛の複雑さを表現する時、右に出る者はいない」と絶賛する受賞者は、『ふたりのベロニカ』『トリコロール 赤の愛』で知られるイレーヌ・ジャコブさんです。
登壇したイレーヌさんが、受け取った副賞のスカーフをさっそく首もとに巻いて見せると、会場からは大喝采。
さらに「コンニチハ、イツモオセワニナッテオリマス」と日本語での挨拶が飛び出し、再び拍手が起ります。
ジャコブさんは6週間前から、平田オリザさんとのコラボレーションによる演劇プロジェクトのため来日しており、城崎国際アートセンターで舞台に出演。
「滞在中に、第1回の京都国際映画祭に来られるという幸運に恵まれました。映画文化にどっぷりつかっていた私が、このような機会に恵まれるのは幸せ」と受賞を喜びました。
また、「開催に向けて尽力された中島さん、奥山さん、本当におめでとうございます。映画祭は映画人すべてにとってさまざまなメリットがある。(京都国際映画祭が)これから新しい日本映画の歴史を刻んでいかれることを願っています」と同映画祭のスタートを祝福。
今回、記念上映される自身の出演作2本を手がけたポーランドの名匠クシシュトフ・キシェロフスキ監督についても触れ、「(監督の祖国である)ポーランドは規制が厳しく、はっきり表現するとすべてカットされてしまう。そんな中、監督は『ほのめかしているだけで、映画を深く理解してくれる日本の観客は素晴らしい』と言っていました」と振り返りました。
ちなみにこの日身に着けていたワンピースは、京都の企業であるワコールから進呈されたものだそう。
「日本の着物の刺繍を取り入れているんですよ」と紹介し、京都の伝統工芸にすっかり魅了された様子でした。
最後を飾るのは、牧野省三賞の発表です。
選考委員を務めた中島監督、大阪大学教授・上倉庸敬さん、東映映画スタジオ代表取締役社長の眞澤洋士さん、奥山さんが登場し、まずはそれぞれがコメントを。
「私が映画界に入る前から存在していた歴史ある賞。今回から俳優さんは除き、映画の作り手の方々に贈ることになった、再出発の賞です」と、中島監督。
上倉さんは、発表後のスピーチだと思っていたとのことで、「聞いていたら誰かわかってしまうかもしれませんが」と苦笑い。
受賞者が製作に携わった作品のシーンを挙げながら、「これからも日本の映画界に大きな実りを与えてくれる」と語りました。
眞澤さんは、今回で第47回となる同賞の歴史を改めて詳しく紹介。
「ご本人に電話したら『なんで俺なんだよ』とおっしゃっていましたが、(ここまでの)お話を聞いてご納得いただけたと思います」というのは奥山さん。
果たして受賞者は誰なのか、プレゼンターの津川雅彦さんが登場し、いよいよ発表のときです。
津川さんは発表前のスピーチで、「日本映画は年々さびれております。何より娯楽映画がダメになっている」と映画界に問題提起。
その原因を分析しつつ、「映画は素晴らしい力を持っている」と奮起を期待するコメント。
「消滅しかかっている日本映画を持ち上げるのはスタッフの力」と同賞の意義を改めて確認する一方で、「ご列席の皆さんも、映画がどれほど素敵なものか考え、また見ていただけるといいなと思います」と呼びかけました。
そして津川さんが発表した今年の「牧野省三賞」受賞者は木村大作さん。
木村さんは「皆さん挨拶が長いんで、マイクを使わず短く」と地声のみで受賞の喜びを。と、いきなり「吉本がやっているのに退屈だなあ! お祭りなんだからもっと盛り上げて」とダメ出しで笑いを誘います。
さらに「今まで受賞した方の名前を見たら、すごい人ばかり。歴史の重さを感じます」としみじみ語りつつ、「津川さんは牧野監督の孫ですが、私は牧野監督の映画の孫だと思っている。これからも長く日本映画が発展するように、あと5年ぐらいは頑張ろうと思います」とユーモアあふれるひとことも。最後に再び「お祭りですよ!」と声を上げ拍手を求めるなど、会場を大いに盛り上げました。
約2時間にわたるセレモニーも、そろそろ閉幕。
吉本興業代表取締役会長・吉野伊佐男が締めくくりの挨拶を行いました。
「吉本は、かつては新京極に京都花月、今は祇園に祇園花月があり、毎日演芸を上演している。また、芸人やタレントにも多数の京都出身者がいる。吉本にとって京都はゆかりのある地」と述べたうえで、「豊富なラインナップが揃っているので、皆さんにはぜひ有意義な時を過ごしていただきたい。そして、今後も愛していただける映画祭を目指していきたいと思います」と話しました。
「京都国際映画祭」は、京都市内の各会場で10月19日(日)まで開催中です。
いま一番熱い映画とアートの最前線を、この機会にたっぷりとお楽しみください。